生まれて初めてした告白は、たしか幼稚園んとき

たまにするお説教がこわいけど優しい、綺麗な先生に
紙で作ったくしゃくしゃの花を持って好きだと叫んだ

今思うと恥ずかしいことこの上ないが
当時にしては精一杯キメた告白だったつもりだ


それから17年とちょっと

まさかこんな告白をしでかすとは
当時の俺どころか昨日までの俺にすら予想できてなくて

やっちまった感で凍りついた空気に世良恭平22歳は
ひきつった笑いを浮かべるしかなかった―――




          流 星 ロ ケ ッ ト




無事に怪我も治り、練習にも混ぜてもらえるようになって
今日なんて模擬戦でゴールまで決めちゃったりして
監督にもやっぱ若いと治んの早いなーヨシヨシ。と
褒めてもらったりもして
(若干子供扱いされた気もするが気にしない)

ようするに今日の世良は思いっきり、いつもの3割増しで浮かれていたのだ

「そだ、医務のセンセーにも完治して絶好調っす!って伝えてこよっ!」

今の時間なら多分マッサージルームで
皆の健康のデータかなんかを見てるはずだ。

そう思い立つや否やスキップにも似た足取りで
クラブハウスに駆け出していった



 +


「――っ…ふぅ…っ…ん」


「え…えーっと…それで迷惑かけたんで一応、その…報告みたいな…」
「そうかい、もうすっかり元気みたいだね。なら安心だわ」

「…はぁ…あ、っく…う…」

切れ切れに聞こえる吐息を帯びた声、
しかしそれに動揺しているのは世良一人

当然だ。ここはマッサージルームで
時間が遅いとはいえ念入りにマッサージを受ける選手なら
残ってマッサージを受けていてもおかしくないし
念入りなマッサージなら声だって出るだろう


それがよからぬ想像というか妄想に繋がってしまうのは
世良の若さと―――声の主の所為だ

「…あ?何ぼーっとしてんだよ…
 マッサージして貰うんなら隣開いてんだ…ろ…っん」
「あぁ折角だしほぐして貰いな、怪我したトコは念入りにね」

「えっ!い…いや俺…」

ベットに促す先生に、まさか半勃ちだから無理です。とも言えず
思わずドアの方に後ずさる

「……世良…?」

うわ、ちょっと堺さん…!
名前なんて呼ばないで下さいって……

「お、俺ちょっと便所行ってきますんで…」
その後に!と最後にくっ付けたセリフは
走り去る足音に半ばかき消されていた


 +


堺さんが好きだと自覚したのはちょっと前

元々真っ当に女の子が好きだったし
彼女だってそれなりに居た経験もある

なのに性格キツめの
年の差9歳の31歳―しかも男の先輩に惚れるなんて
さすがに自分でもビックリとしか言いようがなくて

「(仕方ないじゃんなぁ…好きになっちゃったんだし…)」

トイレの一番奥の個室に入り、溜め息を吐いてから便器に腰かける

とはいえ冷静になって考えてみればみるほど
惚れてしまった理由はわかるのだ



中高と付き合った子は大体同じクラスの可愛いめの子だったが
どうにもどの子も何だかんだ友達のラインを越えた感じはなくて
楽しくはあるけど何となく物足りない…
まさに子供の恋人ごっこ。なんて言葉がしっくりくる付き合いだった

やっぱり惚れるっていうか…憧れて、どきどきして、
たまんなくなるのは初恋の時のような
年上のちょっとキツいとこもあるけど優しい――そんな人で
(だから世良の持っているAVは女教師モノが結構多かったりする)

そう、まさに堺さんみたいなタイプが直球ストレートなのだ


あの日、怪我でへこんでた俺に降ってきた堺さんの言葉

トゲトゲしくて容赦もなくて、
でも俺を救ってくれた優しいそれに
あぁ、俺今恋に落ちたんだ。と思った

赤い実はじけた、なんて言葉の通り
まるでゴール決めたみたいに居てもたってもいられなくて
気が付いたら胸の奥から叫んでいた



「(…すんません堺さん…いただきますっ!)」

なんとなく謝ってしまうのは男の悲しい宿命というか何というか

とはいえオカズは新鮮なうちに使わせて貰おうと
ズボンを下ろした


「うぁー…堺さん…っ」

目を閉じるとさっきの声色が生々しく脳裏に蘇る

「(…俺が堺さん抱いたら…あんな声で喘いでくれんのかな…)」

ごくん、と喉が鳴った

シャワー室でも時間が合わなくて滅多に見れない
堺さんの肌の感触を想像すると
それだけでイきそうになって、自然と扱く動きが早くなっていく


「ッ…堺、さん…っ…好きっす…」


抱きしめたくて抱きしめたくて、泳ぐように腕が動く

「堺…さ……!」


ガタン!と陶器が揺れに合わせて鳴った

行為に没頭していた世良の耳には殆ど聞こえもしない音だったが
予想よりも少しばかり大きく『彼』の耳に届いてしまっていた


―――コンコン!

「!!!っどわ!?」
「世良!」

妄想じゃない…リアルな堺さんの声

「さっさ…っ堺さんっ!?」

思わずひっくり返った声色に
たぶん扉の向こうの堺さんもいぶかしんだのか
一瞬間ができた

「…戻ってこねぇから様子見に来たんだが…
 さっきの音何だ、何かあったのか!?」
「えっ!い…いや……!!」

堺さんが心配してくれた――なんて喜んでる場合じゃない
この状況を見られるわけには本気でいかない

だというのに若さのせいか俺の馬鹿というか
完全にイくタイミングを失ったはずの自身は
勃ちあがったままで


とにかく堺さんには悪いけど、心底悪いけど!
一度出て行ってもらおう!そう決意した瞬間
ひときわ大きく扉が叩かれた


「チ…ッおい!開けるぞ!」
「っ!いやいやダメっすホントなんでもないっすから…!!」

なんだってこういう時に限って
力強いくらい心配してくれちゃうんすか堺さん…!

そういえば昔練習しすぎた選手がトイレの中で倒れたとか
試合後の打ち上げで呑み過ぎた夏木さんが
便器に突っ伏して寝てただの愚痴ってたのを聞いた覚えがある

あーもう…とりあえず夏木さんの馬鹿…!
とこの場に居ない仮にも先輩を罵ってみても何も変わらない

パニくってる間にもドアを叩く音は大きくなっていって

「世良!…もう良い、ブチ破るぞっ」
「だーッだから何でもないって言ってんじゃないっすか!
 ウザいんすよっ!!」

混乱したままの頭で叫んでから
スーッと血の気が引いていった


俺今なんて言った?

心配して、もう上がる時間とっくに過ぎてんのに
様子見にきてくれた先輩――それも堺さんに俺……

「すす…すんません堺さん!違うんス、今のは…ッツ」
「……あぁそうかよ…」

良く分かった、という静かな声と一緒に
ドアの前から遠ざかる足音が響く

「さ…堺さんっ!」

自分でも情けないと思うほどの、すがり付くような声で呼ぶが
一向に足音は遠ざかるのをやめない

先刻まで開けられないようにと押さえつけていたドアを
弾き飛ばすように開け放つ

「―――ッ堺さんっ!」

違うんス、だから待って下さい――そう続けようと顔を上げると
呆気に取られたように目を見開き、
半開きのままの唇を震わせる堺さんの姿

ドアが急に開いたから。とかいう理由ではなさそうな態度に
その凍りついた目線を追う

俺の顔は…見ていない

綺麗な目元の先は俺の顔よりももっと下――

つつつ…と目線を下げてみると
俺の、ユニフォームの裾の下の……


……………。


「わ――――――――――ッツ!!??」
「こ…っの馬鹿―――――!!!」
がっしゃ―――んと派手な雷が落ちた気がした
完全に説教モードに入った堺さんの怒鳴り声がトイレに響く

「人っが心配してみりゃ…呑気にマスかいてただぁ!?
 好い加減にしろこのバカっ!
 ……っていうか仕舞ってから出てこいッツ!///」
「だ…だって堺さんが焦らすから…じゃなくてそのっ」
「お前まさかマッサージルームから出てったの
 そういう理由かよ…!猿かお前っ」
「えっ!」

やばい、マッサージルームで勃ったってトコまで
バレたとなると…俺が堺さんオカズにしてたのもバレて……

「医務の先生におっ勃てるとかどんだけ溜まってんだよ…」


ズコ――――っと思わずすっ転びそうになった


夏木さんのようなリアクションの俺に
もう完全に見下す目というか
汚いものを見る目になってしまった堺さんは
深々と溜め息を吐いてから改めて出て行こうとしてしまう

「だから違いますってば!たしかに勃ったのはそうですけど…っ」
「ッ!寄るな丸出し男っ!
 お前の性癖にケチはつけないどいてやるから…」


「堺さんなんですッツ!!」


「…………は?」

全く意味が分かっていないであろう堺さんの目が
やっとまっすぐに世良を見やる


「だっだから……俺がオカズにしたの…堺さんなんす」



見開かれた目は瞬きさえ忘れていた




「世良…?あのな、だからお前が熟女趣味だろうと
 言いふらしたりなんてしねぇから、くだらない冗談言ってんじゃ…」
「じょ、冗談…じゃないっす
 …その…マッサージ受けてる堺さんに勃っちゃって」


堺さんが好きなんす。


そう言い放つと同時に
凍りつきそうなほどの静寂を帯びた間が2人の間を襲った
(ちなみに世良はまだズボンを履けていない)



「………っ…、ぅわっ!?」

さすがに衝撃展開すぎる世良の発言に
無意識に後ずさっていたのか
足元にあったモップとバケツに足を取られ
ズルっ!どんがらがっしゃーん!という漫画のような効果音とともに
堺さんがトイレの床に尻もちをついた

かなりレアな姿だとかちょっと嬉しがってる場合じゃない

「!」

あぁ、やばい堺さんも気付いちゃった…と
思わず気まずすぎて苦笑いが浮かんだ


言い訳するのに必死で丸出しのまま立ってる俺と
尻もちをついて俺を見上げる堺さん

丁度高さ的に堺さんの顔の目の前に俺のが――


「ッ、な……っ」

そりゃ俺も男だけど堺さんも男で
同じように付いてるワケで、

普通ならそんな見ただけでキャーとか
女の子みたいな反応はまぁ貰えないだろう
…とはいえ

まるで咥えてもらってるみたいな構図だなぁとか
うっかり考えちゃった所為で
また勃ちあがってしまったモノが目の前に会ったら
普通にギャーくらいは言ってもバチは当たらないだろう


硬直したまま目線だけが2人揃ってそこに集まる


行き場を失って空中で止まっていた腕で
そーっと堺さんの髪に触れてみると肩が跳ねるように揺れた


「……堺…さ、ん…」

驚愕と不安の入り混じった目が震えながら見上げてくる


「本気、っす…
 俺…ホントに堺さんのこと好きなんす、だから…」
「………世、良…」




「咥えてくれとは言わないんで!せめて手で…」




ドグシャァアアアアアアアアッ!!!

「―――――――――ッツ!!?」
「猿以下の告白しやがって…いっぺん死ねこの馬鹿ッ!」

本気ではない(と、思いたい)とはいえ現役サッカー選手に
思い切り股間を蹴り上げられた痛みに悶絶してる間に
辛辣な捨て台詞と共に廊下に消えさられて
もう呼びとめる術すらなかった

「さ…さかい…さ……ゔぅ……」


床に突っ伏したままぷるぷると腕を宙に伸ばした



「……お…俺は…諦めないっすよ…堺さぁああ―――んっ!!!」



まだ嫌いと言われたわけじゃない、
自分でも無理があると思うくらいポジティブに考えつつ
冷たい便所の床に熱く熱く吠えまくった


そう、まだ諦めるわけにはいかない
これが俺の人生2度目のマジな恋なのだから


 ご め ん な さ い
世良が072してうっかり堺さんに見られて告白っていう
それだけのテーマで書き始めたんだ。
その告白ってうまくいくの?って聞かれたから
え?さぁ。って答えといた。
これでOKする奴は多分頭がおかしいと思います(ダメじゃん)

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