ガキの頃、真っ白な画用紙にクレヨンを力任せに押し付けて
ぐちゃぐちゃに塗り潰す
そんなことをした事なんてこの人にはないだろう。

睨み付けるというにはあまりに真っ直ぐな目が滑稽で
思わず抉り出したくなる感情をその眼球に舌を這わせて堪えた。

「う…っ」

初めて見せた嫌悪感に歪んだ表情に ぞくりと昂るものが舌先から伝わってくる。
白い画用紙に一本、黒い線を残した絵が脳裏に浮かんだ。

「…グッチャグチャにして引き裂いてやりてーよ、城西さん」
「ぅ…くっ!?」

べろりと舐めた指をスラックスの中に入れ
まだ綺麗な形のままの後孔を引っ掻くように爪先で弄る。

「どっ…どこを触っているんだ…っ持田!」
「どこって城西さん自分で分かんだろ?」

頑なな態度そのままに固く閉じたそこに濡らした指を強引に進め
わざと卑猥な音が立つようにぐにぃ…と途中まで中に入れた指を広げる。
2本の指の間で唾液が糸を引きながらニチャ、と鳴り
組み敷いた身体が僅かに揺れた。

「どうせこの手の、下品な音はキライなんだよね城西さんは」
「……ッ」

きっと耳を塞ぎたいことこの上ないだろう。
それを知った上でわざと下品な音を立て続け、下卑た笑みで見下ろす。

いつもの澄ました優等生顔から
強い否定の目で睨み付けたあの試合の時のように
表情を歪ませる姿が楽しくて仕方がなかった。

キャプテンの顔が全部剥げて自分に罵声を浴びせる姿を早く見たい
そんなことを思うと自然と浮かぶ笑みが止まらない。

「やめ、…や…めろ持田」

弱々しい拒絶の言葉、
他の人の発言なら拒絶する気がないとすら感じるそれ。
けれどどこかでハッキリとした拒絶が見えるのは
この言葉がこの人が口にできる唯一のものだからだろう。

俺より力も立端もあるくせにくだらない正義感と倫理観にまみれた
この人は俺を殴り倒して逃げ出すことすらできない。

「あぁ…それともまだ正当防衛には足りないってことか」
「…持…田…?」

だったら血のニオイくらいは要るよねぇ、と笑うと
一瞬恐怖に似た色で見開かれた目が唐突な痛みに大袈裟に揺れた。

「が…ッ!?」

仰け反る背中を押さえ込んでゴムすら着けていないまま力任せに捩じ込むと
鍛えられた内腿がひきつり薄い皮膚の裂ける感触が伝わってくる。

一番馴染み深い犯り方に
見下ろしたままの表情が青ざめ、声すら出ないのか
酸素を求めるように乾いた唇がぱくぱくと震えていた。

「あーあ、抵抗しないからぁ。城西さんのケツん中に俺の入っちゃったよぉ?」

腰を揺するように内壁を抉ると
ひきつった悲鳴に似た声が微かに漏れた。

纏わりつく血で滑り動くことに問題はないが
無理な挿入にすっかり弛んだままの穴に
血が乾いたら面倒そうだなそう思ったら萎えてきそうだった。

「城西さーんもっとケツ締めてよ全然イけねーじゃん
 キャプテンのくせになっさけねーなぁ」

パン!と尻を叩くと張った皮膚が揺れ
太股が反射的にびくりと緊張した。

その動きが中にも伝わるのを確認すると
バネで動く玩具のスイッチを見つけた子供のように笑みが浮かぶ。

いざとなったらこれでイけるかぁ。と一際強く右手を降り下ろす。

「ッ痛…ぅ!うっ待っ、」

待ってくれ、と情けない声を絞り出す城西さんの肩は震えていた。

鈍い痛みだけでなく羞恥と屈辱の入り雑じった横顔が
肩口から僅かに覗く。

「ん…っぅ…んん…く…うっ」

唇を噛み、息を詰めるようにして下腹部に力を込め
必死に俺に言われた通りに締め付けようとする姿に声を出して笑ってしまう。

「あーあんまし笑わせないでよ城西サン
 笑いすぎてザーメン漏らしちゃうトコだったじゃん」
「お…っお前がしろと…っ」

どう考えても不条理な発言に泣きそうな声が響く。

「でもさぁチョーうけるじゃん
 城西キャプテンが俺なんかの言いなりなんてさぁ」
「……お前、が…」
「あ?」

震えたままの視線が反らされ、きつく目を閉じるときのように
眉間に力が込められては弛緩する。

「お前がこんな真似を、するには…何か理由が有るんだろう…
 っなら俺はキャプテンとして受け止めて…ッうあ!」

ぱぁんと響いたのは今度は平手ではなく
無理に根元までこじ入れ、直腸を突き上げた腰がぶつかった音だった。

「お…っ、ご…ぉ…ア…!」

痙攣する背中と喉、三雲なら失禁でもしていたほどの衝撃だったのだろう
その弓なりにひきつった背中をぺたりと撫でる。

「ダメだなー城西さん全然ダメ。
 …ほんとに何も分かってないからウケるよ」

もう片方の手でポケットに入れっぱなしの携帯を取り出し
適当な電話番号に掛けた。

ゆっくりとした手付きや言葉とは対照的に全く笑っていない表情に
不安の色がどんどん濃くなっているのが視界の端でも分かる。


「一発中出ししたら許してあげよーかと思ってたんだけど気ィ変わったや
 …城西さんさ、オレの暇潰しの為にとりあえず輪姦されてよ」


まわされる、という言葉が一瞬理解出来なかったんだろう。
え?と小さく口が動いた。

それを無視して電話口に向かって
「処女ソーシツしたばっかのウチのキャプテン犯らせてやっから
 人数集めて来いよ、金玉にザーメンたっぷり溜め込んでる奴等な」


そう言い放った後の絶望に染まった城西さんの顔に
堪えきれず高らかに笑い続けた。







止めろ…っれ、冷静になれ…!こんな行為許されると…っ

いやなんだ本当に…ッなぁ頼む…!やめてくれ…


「……ぅ…」

視野がぼやけてうまくピントを合わせられない。

試合で軽い脳神経を起こした時とどこか似ていたが
その時とは違い、いつまで待っても思考すらクリアに動かない。

酷く痛む喉は呼吸をしようとしただけで咽せかける。

殆ど食事と会話にだけ使われると思っていた口内を
いきり勃った性器が出し入れされたことの生理的な嘔吐感と息苦しさが思い出される。

舌先から胃にまで精液の臭いが染み付いているようで
純粋に吐きそうだと思った。


前髪から垂れた精液が目元を伝う。
身体中、練習ウェアやスパイクにまで浴びせられた精液が
乾きかけの異臭を残したままこびりついて
ただ放心状態に近いまま身体を起こそうとする。

「起きたんだ城西さん、おはよ」

「…も……ち、だ…」

まるで何もなかったいつもの朝のような挨拶の声に絶望すら感じる。

「一晩で随分遊んで貰ったねぇ
 城西さん人望あるからさーはじめ腰引けた奴も居たんだよ?
 でもオレの足でオナらせてやるって言ったらやる気出してくれたけどね」

良く見ると持田の足にも僅かに擦り付けられたような精液が付いていた。

「だからさ、これキレーにしてよ城西さん」

綺麗にしろと言われても拭けるようなものは何もない。
まだ汚れていない袖口で拭こうとするが
あっさりと「何手使おうとしてんのさ舐めてって言ってんだよ」と言い放たれる。

「もう輪姦されんの嫌だろ?
 城西さん全然尻でイけねーし超必死で止めろ止めろ言ってたもんなぁ」
「……ッ…」

どうして、と喉まで出かかる。

そんなに俺は持田の気にさわることを言ったのか、
ここまでされるほどに俺は持田に嫌われているのか
聞きたくて堪らないのに

持田に言わせれば間違い″な問いなのだろうという
どこか確信に似た物がそれを思い止まらせる。

「(…俺には一生…持田の事を理解してやれない…)」

ずきりと痛む苦い舌先をその足に伸ばそうとして
遂に涙が何の感慨もなく流れ落ちた。






「(俺のこと理解出来なくて申し訳ないとか思ってんだろうなぁ
 糞真面目っつーか大きなオセワっつーか…)」

そんなもん元からアンタに求めてないと吐き捨てたらどんな顔をするだろうか。

泣きながら足に縋り付くように精液を舐め続ける姿に
吹き出すのを必死で堪える。

「(俺なんかのこと理解しないで良いんだよアンタは)」

にやにやと不謹慎なほどに込み上げてくる笑いが
ふっと糸が切れるように止まる。


 ――何か理由が有るんだろう…


「理由、ねぇ…」

ぼんやりと口に出すとその言葉はやはり安っぽくて

いつだったか食堂でなんとなしに流れていたニュースキャスターの声。
この辺りでどっかの女がレイプされただかなんだかの
下らねぇ話だったろうか。

いつもなら記憶にも残らないだろうその『雑音』に真っ直ぐな声が重なった。


『可哀想に、許せないなこういう事件は』


多分それだけ。それだけが切っ掛けで理由。

アンタがあの時、頭上のテレビ画面を見つめたまま
そんなことを言ったから。

「許さなきゃ良かったのにねぇ、俺の事も」

あぁなんてカワイソウな城西さん

「もひ、だ…?」

舌を出したまま不思議そうに顔を上げた姿に
ぷっと吹き出し、真っ直ぐな視線で見上げてくる目玉ごと
涙の伝った跡を舐め上げた。


アンタに許されない人間ってのがどんな気持ちになるのか、
そんなことが知りたかっただけだと言ったら
今度こそこの目の中に怒りの感情が満たされるのだろうか。




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怒るって言うかいい加減4、5時間くらい正座で説教されてください
効果音はくどくどで。
城西さんのマグロ度が半端なくて困りました
そりゃモッチーの愚息も中折れだよ

城西さんの眼球舐めたい。

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