苛立ちってのは度を越すと頭に来るだけでなく
身体中まで好き勝手に蝕んでくモンだと知ったのは
同じく好き勝手に生きてやがる奴等のせいだった

『イタガキーイタガキー』

「………。」

食堂に着くやそいつらが寄ってくるのに
握っていた箸をヘシ折りかける

先シーズンにまとめてチームに入ってきたブラジル野郎3人組…

元々うっとおしいことこの上ないのに 少し言葉が通じるのと
先日、うっかり淹れてやったコーヒーのせいで
何故か思いっきり懐かれたらしく
毎度毎度こうして寄ってきては無駄に喋りまくられ溜まったもんじゃない

聞き取れないフリをして無視してやっても
次の日からしっかり通訳のスタッフを連れて来るようになっただけで
一切態度の変化は無い

それどころか最近、じわじわとだが
日本語を聞き取るくらいは出来てきているらしく、
面白がって延々と話しかけてくる

だというのに迷惑だ、とあからさまに伝えても
そういう時だけは通訳でも異国の壁が破れない

八つ当たりのように後ろに居る通訳を睨むが
そっちからも 悪いね。と目配せしただけで流される

…どうやら不本意どころか迷惑この上ないことに
監督やコーチ陣から俺はこのアホ外人たちの面倒見係にされてしまったらしい

横から伸びてきたフォークによってオカズが一品取られ、
お返しのつもりなのか謎の外人用メニューの品が乗せられるのにも
口惜しいことに慣れてきた

頭がいてぇ。多分そろそろ腹にも来る。

ただでさえ悪い目付きが最近ますます悪くなった気さえする

『イタガキ今日はなんか元気ないねー』
『駄目だぞちゃんと食べないと。
 …ってペペ!ごはん食べてすぐにパン食べたらお腹苦しくなっちゃうぞ!』

席を囲うような騒音とドタバタとはしゃぎやがる姿に
ぶつん、と堪忍袋の尾が切れた

「るっせぇんだよテメェら!俺はメシを食わせて欲しいんだよ!
 なんなら相手してやっから表でろッ!」

ぜぇぜぇと言い放ち、思い切り指をその鼻っ面に突きだしてやると
驚きを隠せないままぱちくりと目が見開かれ
何かを言おうとしたのか開いたままだった口が形を作ろうとして――
その間を大汗をかいた通訳スタッフが遮るように滑り込んできた

「いっ板垣くん!ちょっとそのまずいよっ!」

「ッ…!べ、別に殴り合いする気はねぇ…けど!
 こいつらには一度がつんと言ってー…」
「いやそういう話じゃなくて…とにかく寮の部屋に戻っといて!」

ぐいぐいと訳の分からないまま食堂から追いやられ、
釈然としない頭を抱えて廊下を歩く後ろ姿を
何か言いたげな口元を残したままの瞳がじっと見つめていた


+

『ゼウベルトー。イタガキどうしたのかなー』

『…』

「板垣のヤツ大丈夫か…だいぶキてるみたいだけど」
「ここんとこ特に鬱憤溜まってるみたいだしなぁ」

周囲で…というか遠巻きに見ていたチームメイト達が
ひそひそ、という音量でなく話しだす

板垣が去って取り残されたブラジルトリオ達なら
日本語での会話など気にしないだろうということだ

確かにその通りゼウベルトが理解したのはことごとく一部分だけだったのだが

『…よし。分かったぞカルロス!ちょっとイタガキのトコ行ってくるな!』

「んが!?ちょ…ちょっと待て
 どこ行くんだゼウベルト!ちょ…カルロス止め…ってアーッ!」


通訳が止めるよりも早く走り出した姿に
うんいってらっしゃーいとカルロスが手を振っていた

 +


 
「なんで俺がアイツらの為に
 部屋まで戻んないといけねぇんだクソ…ッ」

ぼす、と殴り付けた枕がベットの上でやる気なく沈む

試合でいちいちイラ立つヤツに
言動というか喋り方が苛立つヤツ
そしてマトモだと思っていたのに
そいつらに流されてその上一番人にちょっかい出してくるヤツ…

なんだってここまで揃ってやがるんだ

本当に特にアイツだけは毎度毎度ぶん殴ってやろうかと…


『イタガキ!』

「! い…いや問題は起こす気無…ッ
 …ってテメェかよ!何しに来…」

突然の来訪者に慌てるが
それがさっきモメたばかりの元凶と気付き、思い切り睨み付ける

が、相変わらずなんの牽制にもならずに
ズカズカと部屋に上がり込んだ男は目の前まで来たかと思うと
がっしとその両手で肩を押さえ付けてくる

「ッ、!?な、何…」
『日本人はシャイだっていうけど…こういう時くらい言ってくれよイタガキ』
「は?意味分かんねえ…ってか放…どぁ!?」

どたーんと押さえ込まれたまま床に引っくり返される

さっきまで見下ろしていたベットが頭上に佇み、
その更に上に彫りの深い笑みが浮かんでいる

日本人の誰よりも妙に黒い目はらんらんと光って、嫌な予感に顔が青ざめた

ずり、と後ずさると腰をわしづかんで引きずり戻され、
巻くれあがって露出した腹筋の上に
どっかりと座られてしまえば身動きが取れない

暴力沙汰なんかは起こしたことのあるヤツじゃない。
だが優等生でもないのは確かだ

食堂で大々的に喧嘩を売ってから取られたマウントポジションに
じわりと背筋が冷えていく

『怖がらなくて良いってイタガキ。
 男相手は初めてだけどシックスナインは得意なんだ』
「…!?なんて言った今っ」

早口だと聞き取れねぇ、と毒づきながらも
妙な単語があった気がしてならない

まさか、と思うよりも早く身体の上に乗ったままの野郎が
両腕を頭の上にあげるような動作でインナーを脱ぎ捨てていた

あっという間にズボンだけになった身体が視界で蠢き
ひ、と喉の奥でくぐもった悲鳴を出しかける

「なななな…何して…ッ」

話がさっぱり分からない。
いや今までだって分かった試しは無いが
それにしてもこの行動の意味はなんだっていうんだ

『ほらイタガキも脱ぎなよ』
「や、やめろッ!何しやが…っおああ!!」

にゅっと伸びた腕にジャージを剥がれ、ぽいと床に放り投げられた

上半身を済ませた手が下半身に伸びた時に
やっと暴れ続けていた身体が男の下から抜け出し
うつ伏せの状態で這うように逃げようとするが
逃がさないと言わんばかりに足首を掴まれ硬直する

左手で足首を掴まれ、残った右手が
ズボンの広がった裾の中へ滑り込んで来て
太ももからにじりよるように上がってくる手のひらの感触に
ぞくぞくと肌が粟立つ

邪魔な手のせいでうまく動かない足をバタつかせて抵抗するが
かえって腰元からズボンがずり落ちていき
気が付けば半ケツ状態になっていた

「!」

ズルズルと太ももに引っ掛かるようにしていた布が逃げていく感触
伸びたゴムがウェストに入っているだけとはいえ
あまりにあっさりと膝までズリ下ろされた情けなさで涙が出かけた

『男の子のだけど…やっぱり良いなぁこのカンジ…』
「―――!?何してやがんだっやめろ!は…っなれろ畜生…!!」

呼吸が肌に当たる程の距離で尻を撫でられ頬擦りされる

ぞわぞわと背中を震わせ身を捩っていると
重なった肌よりも熱く滑った感触に今度こそ
ひッ!という悲鳴が噛みしめた奥歯を揺らした

「な、…舐め、て…っ?何して…やがッ!?」

生理的な嫌悪感で上擦った声が震える

『日本人だからかな?肌が吸い付くみたいで体毛も薄いし…
 ただシャイだけあってココは固そうだな』
「な、なに言ってっか分かんね…ッひ、ぅあ!?」

ぐいと剥かれるように尻たぶを左右に開かれたと思う暇もなく
肌の上で滑っていた舌先がツプ、と入り込んでくる感覚に身体が跳ねる

「な、な…ッ!?う、嘘だろそこ…っケツの穴…舌入って…!」

細く尖らせるように伸ばした舌にぐりぐりと刺激をされるたび
太ももがぶるぶると震え、生暖かい唾液の伝う感触が内腿で跳ねる

つぷ…チュ、ぬる…ぢゅる、ニチャあぁ…

粘つく水音が自分の身体の下から聞こえるだけで頭がおかしくなりそうで
わざとらしく下品な音を立てる舌が恨めしくて仕方がない

舌が動く度に背中の辺りを無駄に跳ねた髪が
くすぐるように揺れることすら耐えられなかった

『ぷは、…なかなかほぐれてこないなぁ
 感じてはくれてるみたいだけど』

ほら、分かるかいイタガキ。と
手を取られ床に貼り付いた腹を浮かせられて息を飲む

「………ッ!?」

自分で触らされたそこは分かるほどに勃ちあがっているワケでもないのに
とろとろと糸を引かせながら先走りを漏らしていた

「―な、…」

そんなワケない。と必死に否定しようにも
唾液以外のもので床が濡れているのは明らかで
また舌先でつつかれた拍子にポタ、と更に水溜まりを増やした


うそ、だろこんな…

いくら最近抜いてないからって、男にケツ舐められて感じるわけ…!

「ぅは…ッひ…!〜〜ッ!!」

じゅぶ、れろぉっと一際強く舌が中を抉りだす

まるで親指かなにかを入れられているようで
そのくせ滑って動きまわる舌先に頭の中がどんどん翻弄されていく

『おっ…そろそろ入るかな?』
「うあ!」

舌が抜かれるのと入れ替わりに指が押し入ってくる感触に目を見開いた
根元まで入れられた指は舌の届かなかった腸壁を
ひっかくように擦っては奥へと進んでいく

「やめ、やめろ…っや、ァあ…!」

指の動きを止めようと無意識に中を強く締め付ける
そうしたことで却って中に入っている感触を強く感じてしまうのだが
そんなことも言ってられない

「(これ以上コイツに好き勝手されたらマジで頭…おかしく、なる…!)」
『イタガキ、そんなに力入れられると慣らせないって、
 ローションはカルロスの部屋だしなぁ…あ、そうだ』

ずるっと指が抜け、身体にのし掛かってくる体重も消える
やっとこの意味の分からない行為に飽きてくれたのか…と
酷く震えた溜め息が漏れた

とにかく一度頭を落ち着けよう
コイツと全うな意思疏通ができないと文句も制止も意味がない
さっきからコイツの言葉を
マトモに聞き取る事すら出来ていない自分の動揺に腹が立つ

「…おい、――ッツ!?」

上体をひねって向き合おうとした視界に
勃ち上がった性器がグロテスクに光る

顔を背けようとして頭を押さえ込まれた

『舐めてくれよイタガキ』

「う!?ぅ…ぐ…っ」

きつく結んだ口に酷く肉質の強い感触がぐいぐいと押し当てられる
口を開かせようと唇を滑る指との違う感覚が気持ち悪くて歯を食い縛った

『イタガキ〜…舐めるくらいしてくれよ、お互い様だろ?
 これじゃ終らないじゃないか』
「っ…!」

終わる、という言葉に一瞬反応する

「な…舐めりゃ終わり…、ってことか…?
 ふっふざ…けんな畜生…」
『ん?』

ぐ…と喉に力がこもる

息をするだけで口の中に味がしてくるんじゃないかと思えるほどの
濃く蒸れたニオイに浮いた血管とくっきりした裏筋
それの先でぼこりと突出したカリの大きさ
何もかもに目をそらしたくなる

冗談じゃねぇ…こんなモン舐められる、わけ…

『…そうそう。良いよイタガキ もっと喉拡げて…』
「んぅ…ッう、ふ…ぐっ」

塩辛いとも言い難い苦い味が口の中に広がっていく
裏筋に舌先が引っ掛かる度に
ぶるん、と震えた先端が喉の奥を突いて

「ッう、ぅぶ…!」
『舌伸ばしていっぱい舐めてよ、よだれ擦り付けるみたいにしてさ』

舌の上に残る先走りの苦味が増すごとに
飲み下せなくなった唾液がこぼれて胸元を濡らしていく

「(こ、んな…っ…男の咥えて…涎垂らして…っお…俺…)」
『…美味しそうな顔してるねイタガキ
 このまま食べられちゃいそうだ』

ずるる…と喉から引き抜かれた拍子に
また糸を引いて涎がこぼれ落ちた

「ッ…!はぁっ…あ…はぁ…」

目の前に出たそれの大きさにぞくぞくと身体が震える
咥える前よりも大きくなってしっかりと勃ちあがり
てらてらと濡れて光るシルエットに息を飲む

「(抜…いたんだからもう終わり…ってこと、だよな…?
 でも…こ…こんなビキビキに勃って…)」
『イタガキ…』

上体を起こされ膝立ちの状態で支えられる

立てた太ももの間で真上を向いて勃ち上がったモノが揺れていた

「まっ…待…っ!これ…な、何だこの体勢……ゼウベルト!」
『やっと名前呼んでくれたねイタガキ。 なんか嬉しいなぁ』

聞けよ人の話!と思わず叫びたくなる
向かい合って膝に乗るような格好のままの身体が揺れた

床に付いた膝下が震える度に濡れてそそり立った先端が
つつくように舐め回された後孔に触れる

「(こ…これ…足の力抜いたら…!)」
『腰落とせるかいイタガキ。ほら』

力を入れ直した太ももに
くすぐるような指先が滑り、そのまま腰元に手のひらが伸びる

「さ…っさわんな!足っやめ、やめ…ッ」

手のひらの熱さにぞくぞくと身体が震える

手のひらだけじゃなく、触れているところが全部熱くて
顔を背けようとして興奮しきった男の視線とかち合った

『…イタガキ』

いつもと違う声色が耳元で響く
低く掠れた声が落ち着かない

「(こ、興奮…してんだ…よな……コイツに…お、俺も…)」

身体が弛緩した拍子にガクンと膝が落ちる
思わず縋るように肩にしがみ付くが上体を支えるので精一杯で

「(やっ…やばい…な、なか…入って…くる…)」

ぎゅうと腕に力を込めて身体を支え直そうとしてもうまくいかず
ただしがみついた身体と近づくばかりだった

「ゼ…っゼウベル…トッ抜っ…抜けって…!」

くねらせるように腰を揺らすが
丁度カリを飲み込んだ状態で引っ掛かったままでは
抜けるどころか沈み込もうとするばかりで
段々と中を押し上げてくる体積が増えていくのに堪えきれず背筋が震えた

ぞくぞくと指先まで伝わるそれは快楽と言うには異質すぎる

「(なんだよ…これ、おかし…だろ…からだ、震えて…ちから入らね…)」

ずるずると崩れていく身体にヤバいと思いながらも
いっそのこと抵抗全て止めてしまいたくさえなる

ちらりと視線を下へ落とすと
もう半分ほど咥え込んだのか
まだ剥き出しの部分が待ち焦がれるように赤黒く脈打っていた

「ッ、…!や、だ…め、だ っア、あ…ぁ!」

目で見てしまってはもうどんなに意地になっても否定出来ないというのに
認めるのが怖くて何度も頭を振る。――それでも

「(なか、っ…ケツん中……オレ…犯されて…、るんだ…コイツ、に…)」

とろんと蕩けた頭でどこか他人事のように感じる自分の状況に
だらしなく開いたままの口端からまた伝うような涎が零れた

「ぜ、う…っ、…ゼウベル…ト…」
『……あー…もう駄目だイタガキ…』

早口で言い切るようなし喋り方が今までと違って
え、と返そうとしたのと同時に
ガクンと持ち上げられるように揺さぶられる

「な!?ッ、あ!ァ…ああぁ…ッ!!」
『初めてみたいだからゆっくりやろうと思ってたんだけど…』

ごつん、と腸壁にぶつかる衝撃に目を見開く

「うご、動く…な、ッ!ひ…、いぁ…あっあッツ」

背中に爪を立てるようにしがみつこうとするが
突き上げられるたびにガクガクと揺れ
上体を支えることすらままならない

「ひっぐ…ぅ、う…!な、か…くるし…」

ずっぽりと根元まで埋め込まれた圧迫感に
内臓を押し上げられるような動きが合わさって何度も中を襲う

経験したことのない感覚ばかりで流されることしかできない

「(な…にやってんだオレは…?
 こん、な…ブラジル野郎に突っ込まれて、
 …あ…でもやっぱ外人のってスゲ…
 腰…打ち付けられんのッは、激し、すぎ…て…)」

もう完全にされるがままになった身体が崩れるように
向かい合った男の肩へ倒れ込む

さっきまであんなにも熱く感じた肌がうまく感じられない

自分の肌が同じように熱くなって
温度差がなくなってきているんだと思ったら
急にかぁと体温が上がった気がした

「!っ、あ…?」

その重なった肌の間でぬるついた感触がして
視線をずらし、絶句する

『おもらしみたいに溢して…はしたないなぁイタガキ…?』
「…う、そだろなんで…こん…な…ァ、あっ!」

まるで男の腹筋に擦り付けるように
勃ち上がった先端から零れていたのは透明な先走りではなく
明らかに粘性の高い白濁した精液

身体を揺らした拍子にびゅくん、と鈴口がまるで
絞まりの悪い蛇口のように尿道に残っていた分をまた漏らした

「お…オレ…っイッて…る…ッ
 ケツん中、好き勝手えぐられてっ
 ぴゅうぴゅうザーメン漏らして…ぇ、え…」

痙攣するように身体がひくつく

『頭の芯までどろどろって顔してるね…初めてでこんなに感じて
 …そんなに僕のが気持ち良かったのか…なっ』
「ぅは!!ァ…あ…そん、な腰うご…っ奥…や、め…ッツ
 激し…すぎ…て…また、またイっ…あああ…!」

ぱちゅん!と結合部から一層強い水音が弾けた

『そろそろ僕もイかせて貰うよイタガキっ』

揺すぶるような押し上げが内壁を引っ掛けるようなピストンに変わる
その度にじゅぶっじゅぶっと中をかき混ぜるような音が部屋に響いていく

『イタガキ、…中に出しても良いよね?
 イタガキのおしりの中に全部出すよ…っ!』
「あ…ッツ!はぁ…あ!ァひっ…あーッあー…っ!?」

叩き付けるように腸壁へぶちまけられる感触

ゴプゴプゴプ…っと流れ込んでくる熱さに中に出されたと気付く

ゴポ、と低く響く音に中で波打つような精液の感触
流れるように腹筋の上でテラつく さっき自分が吐き出した精液に
これと同じものが中に出されたんだ、と朦朧とした頭で思う


「はぁっ…はぁ…あぁ…っ」
『イタガキ…』

短く切った髪に長い指が差し込まれ耳元を滑る

その耳元に唇が触れ、軽い音を立てた

やっと静かに戻った部屋の中で聞こえるのは
チュ、とくすぐるように落ちてくるキスの音と
自分の名前を熱っぽく呼んでいる声だけで

なんとか力を入れられるようになった腕をしっとりと濡れた背中に伸ばした





 +




ジャーごぼごぼ…

「…………………………。」

水の流れていく音が妙にまぬけに聞こえる
ずるずると身体を引きずるようにトイレから出た


何でだ…何で俺はあんなブラジル野郎に気を許しちまったんだ…っ

顎が痛い上に喉も枯れかけ、チームメイトと喋る気力もない
足もガクガク、腰骨がずれたんじゃねぇかとさえ思えて
まともな歩き方が出来ない

何よりまだ何か挟まっているような感覚…
意識が真っ当に戻って来た時の
段々痛みも一緒に伝わってくる冷や汗はもう2度とごめんだ

本当に切れてないか確認するのだって気が気じゃなかった


…まぁ一応…イった事は認めてやるが

それでもやっぱりあのブラジル野郎の奇行にはもう我慢できない

「板垣くん!」
「!」

パタパタと駆けてくる通訳スタッフ、その後ろには不破監督ー…
丁度良い、アイツらの問題行動全部ブチ撒けて
試合以外でオレの前をちょろちょろ出来ないようにして…

「今朝のその、食堂の一件だけど
 本人が気にしてないって言うから不問ってことになったけど…」
「…殴りかからないようには気を付けますよ…」

だったらその前にアイツらをなんとかしろよ、というのは監督の手前飲み込んでおく

「あの3人板垣くんにすごくなついてるからさ…
 試合の後とかも一緒にプレイするの楽しいって言ってるし」

「え…っ」

アイツらにプレイヤーとしての俺が
気に入られてるなんて考えたこともなかった

監督もサポーターも新しく入ったアイツら贔屓で
アイツら自身も自分たちしか興味無いとー…


ハッと頭を覚ます


だからなんだってんだ

俺が名古屋のエースなんだから評価されて当然じゃねえか
一瞬喜びかけた自分が恨めしい。

「(選手として気に入られてんなら
 やっぱり試合以外では顔会わせなくて良いってことだろ…
 なら都合良いじゃねーか)」


ハン、と鼻を鳴らす
これでアイツらの事を本当にスッキリできる

あんなマネ2度とされずに済む…

「…………///」
「板垣くん?どうしたんだ顔まっ赤だけど…」

気の所為だ…ッツ!と噛みつくように返す

「あ…そういえばその…何かゼウベルトに言われたり
 その、されたりとか無かったかい…?」

「!!!」

心の中を見透かされたんじゃないかと
動揺を顔に出さないことで精一杯だった


「な、なに言っ…な…何も……」

「いや板垣くん知らなかったと思うんだけどさ…その、
 食堂で言葉…向こうだと違う意味になっちゃって…」

耳元でこしょこしょと言われた続きの言葉に
思わず絶句する

「……――――――っつ…!?」
「それでゼウベルトが勘違いしてたら
 まずいと思ったけど何もなかったなら良かったよ」

じゃ、と去っていく2人を呼びとめる事も出来ず
茫然と立ち尽くす



じゃあ俺はまさか…
…自分でアイツを誘ってたのか…?

「……嘘だろ…」

ぐらぐらと視界が揺れてその場で倒れ込むかと真剣に思った

「(いやでも待てよ…普通誘われたからって
 そんな簡単に男なんて抱けんのか…!?)」

いくら脳味噌まで軽そうな奴とはいえ
尻の穴舐めたり突っ込んだり
あんな声で俺を呼んだりして…

うっかり今朝の事を思い出して茹で上がった顔が熱を持つ
認めたくなくてガゴン!と壁に頭を打ち付けた


アイツが突然襲ってきたもんだと思ってたのに
…どんな顔すりゃ良いんだ

とはいえ俺の所為で無理にやらせたのかもしれないのなら
一応謝るべき…だろう


よろよろと身体を動かして廊下の奥に消えた通訳スタッフを
捕まえに行くことに決めて歩き出した


 +


『あれ…?イタガキ。どうしたんだい?』

いつも通り無駄に3人まとまってる姿を見つけて
無表情のまま近づく

「……その…今朝は悪かった…けどお前の誤解も入ってる。
 だからもう俺にああ言う事すんな…」

この言い方なら肝心な部分はコイツ以外には伝わらないし
通訳や他の奴らにも意味はそこそこ通るから
変に勘繰られる心配も無いだろう

それだけだ。そう言ってこの場を立ち去っちまえば
全部終わらせられる

通訳スタッフが繰り返すように喋り始めたのを確認して
背を向けようとした時、がっしと腕を掴まれた

「あ…?ちょ、オイ…」
『そうそう今朝のこと!僕もイタガキを待ってたんだよー』

にっこにっことあまりに朗らかな笑み
朗らかすぎて嫌な予感さえする


『今度は4人でしようよ!
 イタガキ喘ぎっぱなしですっごく可愛かったから
 さっき2人にも話したら混ざりたいって!4P楽しいよー!』

「4っ…え…!?」

凍りついた通訳の表情と眩し過ぎるほど全力笑顔の3人組に
とりあえずどうやって殺してやろうかと本気で思案した





通訳さん乙。
板垣あんあん良いすぎきもいけど
あんあん言わせまくるのがブラジル人の底力だということでひとつ。

ちなみに板垣の言葉は
ケツの穴ほじってくれ的なアレです。さそいうけ!(違)
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